※お下品注意!


ここは深夜の六年長屋、乱太郎の部屋である。
夕飯や入浴こそ其々だったものの、就寝時間までに珍しく全員が揃った上、明日は休日だというのでちょっと集まろうか、という事になった。
所謂学園には内密の宴会を開催しようというのである。
こういう時の集合場所は決まって乱太郎の部屋で、主な理由は「一人で部屋を使用しているので、全員が集まっても充分な空間が確保できるから」というものだった。
まぁ多少邪な考えがあるのも事実のようだが。
さて話を戻すが、そんな乱太郎の部屋では今正にちょっとした騒ぎが起きようとしていた。


「らーんたろ~、呑んでるか?!」

「うん。あ、ちょっとこへちゃん!重いよ!」

「こら小平太!乱太郎に圧し掛かるな!!」


しこたま酒を呑んだ小平太が、乱太郎にちょっかいをかけていたのである。


「乱太郎から良い匂いがするのが悪い」

「しんべヱ君に貰ったシャボンの匂いでしょ?!あっ!ちょっと、やめ…て…!!」

「んー、特にここが……」


酒のせいかほんのり赤く染まった首筋からふぅわりと香るシャボンの匂いを見付けた小平太は、乱太郎の静止も聞かず躊躇なくその場所へと顔を近づけた。
そして鼻先をくっ付けて胸一杯に空気を吸い込むと、僅かに触れた小平太の鼻先が乱太郎の首筋をなぞって擽る。


「やっ!ねぇ、こへちゃ、くすぐった、いよ」

「乱太郎、色っぽい」


思わず漏れた乱太郎の悲鳴にも似た声に、小平太の口角は無意識に上がる。
そしてヌラリと唇を舐め上げると、笑みを貼り付けたまま今度は濡れた舌先で同じように首をなぞってみせた。


「んっ」


吐息交じりにピクリと肩を竦め、乱太郎は浅い呼吸で小平太の体を押し返す。
しかし、その間にも小平太の赤い舌先は乱太郎の耳裏から鎖骨へと濡れた道を辿っていく。
小平太の舌先が動くのに合わせて下腹にゾワリとした感覚が疼くのを感じ、乱太郎はそれから逃げるようにギュウとキツく瞼を絞った。
その一瞬の後肌が一気に粟立つのを感じ、瞳を閉じたのは失敗であったとすぐに後悔する。
閉ざされた視界の代わりに、肌が敏感に小平太から与えられる刺激を拾って脳内に伝えてくるのだ。


「ね、もうやめ、て」

「んー、ダメ」


ふるりと震えながら訴える乱太郎。
しかし、とうとう鎖骨に辿りついた小平太は、乱太郎のか細い抗議の声に喜色をあらわにしつつそれを拒否した。
嫋やかな鎖骨の窪みにさえも舌先を埋めてなぞると、チュ、と音を立てて柔らかな肌を吸い上げる。


――ひゅっ


それに乱太郎が声も出せずに息を吸い上げたその時、唇に細い骨が当たるのを感じた小平太はどうしてもそこに歯を立てたいという衝動に駆られた。
そしてそれを実行しようと唇を開いた瞬間


「こ、の……ケダモノが!!!!!!!!!!!!!!!」


そんな絶叫と共に脇腹に物凄い衝撃が走る。
ズン、と耳の奥に鈍い音がしたと思うと、ドガッ!!と重い音を立て次の瞬間には


ドッ、サ……


と、壁に背中をしこたま打ち付けながら自分は床の上に転がっていた。
何が起きたのか一瞬分からず、床と仲良くなったまま周囲を見回せば、そこには鬼の形相で血管をぶち切れそうにしている仙蔵と、額は真っ青、顔は真っ赤と器用な事になっている留三郎、顔全体を真っ赤にして拳を震わせている文次郎、そしてこの世の威圧を全て集めて凝縮させたような笑顔を浮かべている長次の姿があった。
その仙蔵が片足を浮かせたまま静止しているのを確認出来たので、あぁ、脇腹をしこたま蹴り上げられて部屋の隅まで吹っ飛んだのだと理解することが出来た。
一方、小平太の行為に全身を震わせていた乱太郎は、真っ青な顔をして駆け寄って来た伊作に細い肩を揺らされていた。
頬を淡く染め、浅く繰り返される呼吸に力が入らないのか伊作に体を預けるような形でしな垂れかかっている。


「ら、乱太郎!!大丈夫?!」

「・ ・ ・ ・ ・ ・」


伊作の声と体が揺れる感覚に、小平太が自分から離れたのだという事をやっと理解したのか、固く閉じられていた瞼がゆるゆると持ち上げられていく。
ゆっくりと静かに現れた乱太郎の瞳には薄く綺麗に水の膜が張られていて、それがみるみる内に目尻に溜まっていった。
しかしそれは落ちる事なく静かにまた瞳に広がると、今度は僅かに視線を動かした乱太郎の動きに合わせてゆうらりと揺れ、そして何処かへと吸い込まれ消えていった。


「はぁ、ふ……」


伊作に肩を抱かれたまま、思わず熱い吐息を為息にして吐き出す乱太郎。
目尻から頬にかけて淡い赤色に染められたその姿に、伊作や仙蔵達は知らず喉を鳴らす。
が、


「あ、また勃った」


小平太のこの一言に一気に現実に引き戻された。


「小平太ぁ……お前覚悟は出来てるんだろうねぇ」


のうのうと自分の下半身事情を曝け出す小平太に、伊作は薄ら黒い表情を隠すことなく懐に手を突っ込んで小さな包みを取り出す。


「丁度良いからコレの実験体になってもらおうかな」


カサリと音を立ててそれを広げる伊作に、「それ、新しい毒か?」と留三郎が口を挟む。
伊作が懐から取り出す包みに碌なものは無いと知ってはいるが、今伊作が手にしている包み紙が見た事のないものだったので思わず確認をせずにはいられなかったのだ。


「そうだよ。これが体内に入ると一週間は高熱に魘される。上に体中に激痛が走るんだ。きっちり一週間後に熱は下がるけど、その頃にはあちこちの神経が麻痺して上手く動かなくなっているだろうね」


それはそれは楽しそうに小平太を眺めながら語る伊作に、頭に血が上っていた面々も流石に「エゲツない」と顔を顰める。
だがそれを動いて止めようとする者は居なかった。
何故なら


「小平太、酔うと乱太郎に迫るその癖、いい加減僕が治してあげる」


伊作の言う通り、今回が初めてではなかったからだ。
小平太は酒が弱い訳ではない、むしろ一度酔ってしまえば後はそのまま何時までもダラダラ呑んで居られるような質だった。
しかしその酔い方というのが迷惑極まりないものだったのだ。
酒は欲を開放させるとは良く言うが、小平太の場合は下半身の欲が全力で開放されるという形をとっていた。
しかもその欲の全ては乱太郎へと向かう。
酒盛りをする度に、酔っては乱太郎の柔肌に手を伸ばす、隙あらば押し倒すなど、上げていったらキリがない。
ならば酒盛りを控えたらどうだろうと思うかもしれないが、各々一人で勝手に酒盛りしていたりすることもあるので、それを制限する事にあまり意味は無いのだった。


「私は乱太郎の事を好いている。欲しいと思うのは当然だろう」

「煩いよ」

「乱太郎、私と口吸いしよう」

「ふぁ、こへちゃ……ちょっ、と」


伊作の言葉も何のその、何時の間に間合いを詰めたのか再び乱太郎の首筋に唇を寄せながら口吸いを迫る小平太。


「小平太!お、お前何を言っているのか分かっているのか?!」

「勿論だ」

「分かっているなら余計質が悪い!今すぐ乱太郎から離れろ!!」


部屋中、いや、長屋中に響く文次郎の怒声。
もはや教師に見つからないように、などという問題ではない。
しかし何故こんなにも文次郎が騒ぐのか?それはこの時代、口吸いという行為自体が性行為の一種であるためだ。
愛情表現としてではなく、完全に行為の一部に組み込まれているそれを、この場にいる者達が許す筈は当然無い。
しかし


「乱太郎、私と情交を結んでくれ」


酔った小平太に周りの者など関係ない。
只管愛しい乱太郎に向かって日頃押し込めている本音をぶつけまくる。


「~~~っ、毎回毎回……」

「らんたろう」

「ん、やぁ!こへちゃん!!」

「小平太あぁぁぁぁぁぁぁ」

「なんつー馬鹿だ!」

「……今回こそ、沈める」

「うむ、そうしよう」

「っだーーーー!おい、いい加減にしろよ小平太!!!!」


こうして今回も、小平太のむき出しの欲に翻弄されることになったのだった。
さて今回の一対五の戦いは何時まで続けられるのか。(乱太郎は戦力外。守られるお姫様役だ)
それは分からないが、文次郎の放ったこの言葉が戦いの火蓋を切った事だけは伝えておこうと思う。


「こっの、下半身に正直な馬鹿者が!!!!!!」




小平太さんの暴走。
ちっすVvの意味はこの話の中でのみ有効。
でなきゃ接吻話書けないもんね。
この後伊作が毒を使用するのを乱太郎さんが止めて、それもあって朝までコースでドンパチしてると思うよ。
教師の皆さんは勿論気付いてるけど、あまりに毎度の事過ぎてもう何も言わない。
中には伊作達を応援しちゃったりしてる方もいるかもしれない。



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