「・・・・・・なぁ、何アイツ」

「煩い、僕に聞くな」

「何であんなにメルディに引っ付いてんだよ」

「だから僕に聞くな」

「キール、お前無関心なフリしてるつもりか?」

「なっ、フリとか言うな!僕は別に・・・・・・!!」

「眉間のシワ、凄ぇ事になってるぞ」


リッド、キール、ファラの3人から少し離れた場所で、メルディは楽しそうに笑い声を上げている。
久しぶりに帰ってきたアイメンだ、親しくしていた人物と話に花が咲くのも良く分かる。
しかし、しかしだ。
その相手が問題なのだ。
メルディが親しげに、しかも超絶可愛い笑顔で話しているのは男。
そう、男なのだ。


「ハミルトとか言ったか。メルディとは幼い頃から親しかったらしい、気を許すのも当然だろう」

「でもよー、アイツ、明らかにメルディに気があるだろ」

「―そうだな」

「あっ!何やってんだアイツ!!近づき過ぎだろ!!」

「そうだな・・・・・・」

「キール、言葉から怒りがだだ漏れてるぞ」


(2人して何話してるのかと思えば、さっきから同じようなことばっかり言って)


先程からメルディ達の様子を伺ながら、いちいち反応する男2人を眺めながらファラは呆れて溜息をついた。
幼なじみの2人が誰かを好きになるのは何だか少し寂しい気もしたが、万事がこんな状態なのでだんだんメルディが心配になってきてしまう。
いつか何かをやらかしてしまうんじゃないかと気が気でないのだ。


「ねぇ2人共、そんなに気になるなら会話に入れてもらえば?」


埒もあかない事を延々と言い続けているリッドとキールに、とうとうだんまりを決め込んでいたファラは口を出した。
しかしそれを言われた本人達は『なにを言っているんだ』という顔でこちらを見詰め返してくるだけだ。


「なによ」

「なに言ってるんだお前」

「はぁ?」

「僕達は別にあの会話の中に入りたいわけじゃない」

「じゃあ何なの?」

「別に」


(ははぁ、メルディが自分達以外の男の子と親しげなのが何となく気に入らないわけか)


全く子供じみた嫉妬に笑いさえ込み上げて来ない。


「あのねぇ、そんな事言ってるけど、こんな事やってる内にあの2人の会話はどんどん進んでるみたいだよ。ほら、今夜お泊りの計画してるみたいだし」

「なに?!」


言われて必死に耳を傾ければ


「ワイール!ホントに良いのか?」

「ああ、久しぶりだし皆喜ぶ。俺もメルディと話したい事が沢山あるからな。良いと思うぜ」


確かにそんな内容の会話をしているではないか。


「なに言ってんだアイツ。ここにはメルディの家があるじゃないか。だったらそこで十分だ!」

「全く同感だ」


もうファラは呆れて言葉も無い。


「おい、ハミルト」

「なんだ」


メルディのお泊り発言には流石に黙ってみていられなくなったのか、とうとうリッドがハミルトに向かって声をかけた。
苛立ちを隠せない声に、ハミルトの眉が若干寄ってしまっているが。


「メルディにはちゃんと家があるだろ、何でわざわざお前の家に行く必要があるんだよ。大体俺達はどうすんだ」

「お前達も来れば良いじゃないか」

「そだよリッドー。メルディだけなんてそんなの寂しいな、それにせっかくアイメンに来てくれたのに放っておいたりしないな!」

「う・・・・・・」

「しかしハミルト、急に僕達が邪魔するのは良くないだろう。アイメンの人々がメルディと話したいと言うのはわかるが、それは明日の日中でも出来る事じゃないか」


リッドが黙ってしまうと、選手交代とでもいうようにキールが話し出す。
眉尻を下げ、いかにも『すまないが、』といった表情だが、その実『メルディのお泊り絶対反対!!』という本音が滲み出ている。


「なにを言ってる。メルディは成すべき事があってアイメンに戻ってきたのだろう?それなら日中からあまり引き止めるような事は出来ないじゃないか。俺達も仕事があるしな」

「それはそうだが。では夜だってそんなに長く起きて居るのは感心しない」

「キール遅くまで起きてるよー」

「余計なことを言うなメルディ」

「なんだよー」

「当然そんなに遅くまで引き止めるつもりはない。それにさっきも言ったが全員家に招待するつもりだ、なによりサグラやブレンダに是非そうしろと言われているんだ。俺が今住んでいるのは師匠であるサグラの家だからな」

「う・・・・・・」


そう言われては無下にも出来ない。


「まぁまぁ。良いじゃない、泊まらせてもらおうよ。キールだってサグラさんに聞きたい事沢山あるんでしょ?それにリッドだって、ブレンダさんが美味しい料理つくって待っててくれてるかもよ?」


ぬぬぬ、と眉間にシワを寄せて唸っている男達にファラが言うと、2人は明らかに動揺した様子を見せた。


「そだな!サグラならセレスティアが技術について色々教えてくれるよ~。メルディじゃ分からないことタクサン教えてくれると思うな」

「でしょでしょ?」

「それにブレンダが料理はとーーーっても美味しいな!!リッドがほっぺポロリだよ」


更に駄目押し。
メルディがキラキラした笑顔で言うものだから、ついに2人は首を縦に振らざるをえなくなってしまったのだった。


「分かったよ・・・・・・」

「ワイール!決まりだな!!」

「そうだな。じゃあ早速行くか、サグラ達もきっと待ってる」

「はいな!行こう行こうーー!!」


心底嬉しそうな顔をして、メルディはハミルトの腕を引っ張って小走りになる。
ここでまたハミルトの腕をとったことで、リッドとキールはこの上ない程のショックを受けていた。


「久しぶりだから仕方ない、仕方ない」


最早なにか気味の悪い呪文のように繰り返しながら、2人は拳を握りしめる。

しかし


「そういやメルディは1人で寝られるようになったのか?」

「?!?!?!?!?!」

「バイバ!ダイジョブだよぅ!もうハミルトは一緒に寝てもらわなくても寝られるな」

「なんだ、それは残念だな。久しぶりにメルディと一緒に寝られるかと思ったのに」


先を歩くメルディとハミルトの会話に、もの凄い衝撃をくらってしまった。
それはもう頭上からメテオスォームをくらったかのような衝撃を。
しかしそんな2人に全く気付かず、彼等は寄り添うような距離で話し続ける。


「ハミルトがエッチ!」

「嘘だよ。でもな、もし怖くなったらいつでも俺の所に来いよ」

「はいな、ありがと」


僅かに頬を染めるメルディに、ハミルトの目が優しく細められる。
彼女を見詰める瞳が、愛しく思っている人へのものだというのは誰が見ても明らかだ。
そして、見詰められる彼女も少なからず彼の事を想っているのだろう、染められた頬がそれはそれは幸せそうに歪むのを見逃せる筈も無かった。


「これは2人に勝ち目はないかもしれないなぁ」


見たことのない彼女の表情に、思わずファラは呟いて当の本人達を見遣る。
そこには先程の会話から固まって動けなくなっていた2人が、更にメルディの反応を受けて今にも崩れ落ちそうになっている姿があったのだった。


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