※オリキャラが出ます。苦手な方は閲覧をお控え下さい。
※アイメンの皆さん生存ルート捏造



「はぁ?!まだしてない?!」


デカい声で叫ばれて、ハミルトはこいつに打ち明けたのは間違いだった、と後悔した。


「声が大きい」

「お前がまだ何て言うからじゃん!っつーかお前とメルディ、どんだけ一緒にいんの?!そんなんとっくに済ませてるとばかり思ってたのに!!」

「だから声が大きい」

「デカい声出さずにいられるかっつーの!」


とうとう自分を無視してブツブツ言いはじめた彼に、ハミルトは頭痛を覚えて溜息をついた。
事の始まりは彼、エリソンのいつもの軽口だった。
仕事の合間の休憩時間、ハミルトは珍しく近くの飲食店へと足を運んだ。
何時もならばメルディが手作りの弁当を用意してくれているのだが、今朝は寝坊をしたとかで間に合わなかったらしい。
玄関まで見送ってくれる際、平謝り状態だった彼女を思い出して笑みが零れる。
昼時で混雑する店内を見回し、空いている席に座ると程なくウェイトレスがメニューを持ってやってきた。
それを受け取って眺めていると、先程のウェイトレスがやってきて相席を頼まれる。
混雑している上に自分のテーブルが4人掛けだったこともあり、断る理由も無く了承をしたのだが、それが間違いだった。


「ありがとう」


そう言って斜め向かいに座った男の声が、なんだか妙に聞き覚えがあるような気がしてメニューから視線を外した。


「あ」


しまった・・・・・・。咄嗟に彼はそう思ってしまった。
何故なら相席を了承した人物は、自分が常日頃頭を悩ませている相手だったのだ。
彼の名前はエリソン、17歳。
自分が修業させて貰っている武器屋のお得意様で、時折店番を手伝ってくれるメルディにちょっかいばかりかけている要注意人物だ。


「あれ、ハミルトじゃん。珍しいねここにいるなんて。何々?今日はメルディの手作り弁当無し?そっかー、とうとう飽きられたか。んじゃ今度は俺の番だな」

「違う」

「あっれ~?違うの?じゃあ喧嘩だ。やっぱり俺の方がメルディには合ってるんじゃないかなー」

「違うっ」

「んじゃ何よ?メルディが一方的に怒ってるの?怒らせるような事したら駄目じゃん。俺だったらそんな事しないのに」

「ち・が・う!!」


こちらの話など全く聞く気もないように1人で勝手に喋る彼に、ハミルトはとうとう制止をかけた。


「違うの?なんだ、せっかくメルディと恋仲になれると思ったのに」

「エリソン、お前何処まで本気で言ってる」

「え~?ほらまたそんな怖い顔してー。んで、ハミルトはメルディとどこまでいったのさ」

「な・・・・・・」


まただ。コイツは昔から全くこっちの話を聞かないのだ。
しかも彼の話には脈絡もない。


「どうなのさ。キスくらいしたんだろ?それも許せねぇけど、まさかもうヤッちゃった?」

「・・・・・・」

「何その沈黙」

「いや、」

「なに、まだヤッてない?」

「・・・・・・」

「キスくらいはしてるよな?」

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」


長い沈黙が横たわる。
ハミルトの顔を無言で見詰めつづけるエリソン、その視線から逃れるように顔を背けるハミルト。


「なに?この沈黙」


長い長い沈黙をぶち破って、エリソンがハミルトに問いただす。


「・・・・・・だ」

「あい?」

「・・・・・・まだ」

「はぁ?!まだしてない?!」

「声が大きい」

「お前がまだ何て言うからじゃん!っつーかお前とメルディ、どんだけ一緒にいんの?!そんなんとっくに済ませてるとばかり思ってたのに!!」

「だから声が大きい」

「デカい声出さずにいられるかっつーの!」


本当に心底後悔した。
知らなかったとはいえ彼との相席を許した自分も、馬鹿正直に答えてしまった自分も。


「何モタモタしてんの?!あのメルディだよ?アイメンの男なら知らない野郎はいないってくらいの子だよ?なーんで未だにキスの1つもしてないわけ?!」

「それは」

「お前さ、メルディの事を狙ってる男がどれだけいると思ってんの?いっつもお前が隣にいるから簡単に声かけられないだけなんだぞ?俺だってお前とメルディがそういう仲なんだって思ってたから控えめにしてたのに!」

「お前、あれで控えめなのか」

「そうと知ってたらもっと真剣に口説いてたのに!」

「おい・・・・・・」

「いやいや、そうと知ったならいまからがチャンスだよ。メルディ、今日も夕飯の買い出しに行くだろ?」

「人の話を」

「なにさ、何時までもモタモタしてるハミルトがいけないんだぞ。俺みたいな男はこのアイメン中のそこいらにいるんだ」

「なっなに言って」

「悪いけど本当の事。俺さっさと飯食って仕事戻るわ。早めに切り上げてメルディんとこ行かないと」


そう言って彼はバサバサとメニューを広げると、適当に眼についたものを頼んでしまった。
こうしちゃいられない!とハミルトも適当に注文を済ませると、今日は何時もより数倍早く仕事を終わらせる!と密かに決意するのだった。

仕事に戻ってからも、ハミルトはメルディの事が気にかかって気が気でなかった。
エリソンの言葉が頭から離れずにいたのだ。


「ハミルト?一体どうしたの?体調でも悪いの?」


ブレンダに心配されてしまい、仕事に身が入っていない事を思い知らされる。
こんな調子では仕事を早く終えるどころではないではないか。


「さっきエリソンに会ったが、もしかして奴に何か言われたのか?」


外で客と話していたサグラがニヤニヤしながら戻ってきた。
明らかに何か知っている顔だ。


「知ってるんじゃないですか?」

「バレたか」

「バレたかじゃないですよ。一体どこで聞いたんです」

「私が話したのよー」


サグラの背後からそう声がして、ヒョッコリとロッテが顔を出した。


「ロッテ、またお前か。一体何処でそんな話を仕入れてくるんだ」

「女の情報網を舐めちゃ駄目よ。まぁハミルトの話は直接聞いてたんだけどね」


そう言ってペロリと舌を見せる。


「直接?」

「そうよ。だって私ハミルトとエリソンの席のすぐ真後ろにいたんだもん。なんか面白そうな話してたからこっそり聞いてたらエリソンが急に大声出すんだもん。ビックリしちゃった!」


キャキャ、と笑い声を上げるロッテ。
しまった。まさかあの場に彼女が居るとは思ってもみなかった。


「まぁねー、ハミルトって奥手っぽいもんね。メルディも色恋沙汰には疎いし、キスすらしてないなんて私から言わせてもらえば想定の範囲内だよ」


全くマセた子供だ。
男女の仲が開けっ広げなセレスティアにおいても、彼女は特別なほうだろう。


「でもねー、エリソンの言うことも当たってる。メルディ可愛いもん。このままハミルトがモタモタがしてるとあっという間にさらわれるよ?メルディに関する噂はあっという間に広がるしね」


一気に血の気が引いた。
エリソンの言ったことを全く信じていなかったわけではないが、噂好きで情報の早いロッテの口から言われたことで、それは随分と重みを増してしまったのだ。
メルディにちょっかいをかける男が多いことは自覚していた、でも自分がいるから大丈夫だと思っていたのだ。
いくら恋愛に自由奔放なセレスティアンだからといって、一緒に住んでいる男がいる子に本気で手を出すことはないだろうと。
しかしそんな事は全く無かったらしい。
一緒に住んでいたって所詮それだけなのだ。


「今夜あたり頑張りどころかな」


―――ロッテの言葉が随分と重く響いた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「おかえりー、今日はずいぶん早いなー」


あれから悶々とした気持ちのまま仕事をし、今日は早く上がれとニヤついた顔のサグラに言われて随分な早足で家まで帰ってきた。


「ただいま。メルディ、エリソンと会わなかったか?」

昼食時の彼の事が気にかかって、早々に彼の話題を出した。
もしこれでメルディに何かしでかしてたりしてみろ、今すぐにでも奴の所へ行って八つ裂いてくれる。


「エリソン?そいえば夕方会ったよ。夕飯の買い物手伝ってくれたの。メルディ大助かりだったな!」

「何か変な事言われたりしてないよな?」

「変な事ってなにか?」

「いや、何もないなら良いんだ」

「あ、そいえば」

「な、なんだ?」

「今夜なにか特別な事が起こらなかったら、その時は俺の番だからって」

「アイツっ!」

「でもメルディ、なんの事だか分からなかったよ。ハミルトは分かるか?」

「い、いや、なんでもないから」

「なんだよ~。教えてくれないか?ハミルトがケチー」


ぷぅ、と頬を膨らませると『じゃあ良いもーん』と言いつつキッチンへと消えて行った。


「今夜特別な事って、アイツ何考えてるんだ」


キッチンへとメルディの姿が消えたことを確認すると、ハミルトは溜息をつきつつ呟いた。
自分だって、何もメルディに対してそういう欲が無い訳じゃない。
でも、それは人それぞれのタイミングがあって、自分達にはまだ早いんじゃないかと思っていただけだ。
ロッテが言うように自分は奥手な方だと思うし、メルディに至ってはまだまだそんな事とは無縁そうにしている。
だから来るべき時にそれが来るまではこのままで良いと、そう思っていたのに。


「余計なことを―」


エリソンやロッテに唆されたからだとは思いたくないが、帰宅してメルディと話している間も、彼女の唇が気になって仕方が無かった。


「ハミルトー、何してるか?ご飯冷めちゃうよぅ!はよはよぅ!」


彼女の声に我にかえる。
自分が悶々と考え事をしている間に、メルディはすっかり夕飯の支度を整えてしまっていたようだ。
ダイニングテーブルの上には、ほかほかと湯気を立てている食事が並べられていた。


「悪い、ちょっとボーッとしてた」

「何か考え事してたか?バイバ!顔赤いよー」


体調でも悪くしたのかと心配して、メルディは自分の額をハミルトの額にくっつけて熱を測ろうとする。
そんな彼女の行動は何時もと同じなのに、今のハミルトの心臓には刺激が強すぎた。
彼女の顔が近い、彼女の唇も近い、今までこんなこと意識していなかったのに。
愛らしい彼女の顔が、綺麗な桜色の唇が、その愛らしい声が、なんだか全てが愛しくて、誘われているように思えて。
やっぱりあの2人のせいだ――!!


「め、メルディ」

「はいな?」


熱はないなー、と額を離すと、今度はハミルトに肩を掴まれてしまった。
緊張した顔で、仄かに頬に赤みがさしている。
肩を掴んでいる指先は僅かに震え、自分を見つめる瞳はなんだか熱かった。


「なぁ、っ!!」


何?と聞こうとした唇。
しかしそれを言葉にすることは叶わなかった。
柔らかくて温かい、優しい感触が唇を覆ってしまったから。


「―――・・・・・」


優しく触れていた唇が、同じように優しく離れていった。
眼を閉じることも出来なかったメルディは、一瞬ハミルトの瞳を見詰めて、その瞬間顔を真っ赤に染めて俯いてしまった。
ハミルトはと言えば、メルディに突然口付けてしまったという現実に戸惑い、半面とても幸せだと思い同じ様に俯いてしまっている。


「メルディ」


たっぷり数分の沈黙を守ったハミルトは、未だ真っ赤な顔を俯かせている彼女の名前を呼んだ。
名前を呼ばれた彼女は、眉をハの字にしておずおずと顔を上げる。


「急に、ごめんな。その」


彼女の名前を呼んだは良いが、一体何と言葉をかけたらいいものやら検討もつかず、何となく謝ってしまった。
しかしその言葉を聞いた彼女は、何とも言えない妙な表情になっている。


「メルディ?」

「なぜ謝るのか?」

「え」

「なぜ謝るのか?メルディ、嬉しかったのに」


どうやら自分が謝ったことが気に入らなかったらしい。
そう言って、再び俯いてしまった。


「ごめん。あ、いや、その」

「謝らずともいいな。メルディ、嬉しかった。ちょっと恥ずかしかったけど、とてもとても嬉しいよ」


チラリと上目使いで、ハミルトの表情を伺う様にして言うと、そっと自分の唇を撫でた。
頬を染めて、本当に嬉しそうに笑う。
そんなメルディを見て、ハミルトは心底愛しいという気持ちを知る。
こんなに嬉しそうな、幸せそうな表情をつくってあげられるのならば、もっと早くこうしていれば良かった。
そんな風にさえ思った。


(なにを思っているんだか、そんな勇気なかった癖に)


単純な自分の思考回路に呆れてしまう。
でも、そう思えるほどに自然な感触だったのだ。


「俺も、俺も嬉しい」


愛しそうに唇を撫でている彼女の手をとって、優しく抱き寄せる。
自然と上を向いた彼女の唇に再度優しく口付けると、今度は彼女が瞳を閉じたのが感じ取れた。
触れてみればこんなにも自然に合わさる唇、言葉以上に想いを伝えてくれるような気がして、中々離す事が出来ない。
優しく啄むように、何度も何度も、触れては離れて。
そうして幾度と無く角度を変えて触れ合う度に、メルディとハミルトは小さく笑い合った。
そんな風にして、ようやく気が済んで唇を離した時にはすっかり料理は冷めてしまっていて、温め直す為にキッチンへ向かった2人だったが、結局その間さえもキスの雨は降り続いてしまったのだった。


その後2人の間では、おはよう、いってらっしゃい、おかえり、おやすみのキスが習慣になったのだとか。


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