※オリキャラが数人出てきます。苦手な方は閲覧をお控え下さい。
キールがとっとと帰ってしまった翌日。
研究室ではやたらとニヤついた表情の同僚達が、今か今かとキールの到着を待っていた。
実は彼が帰った後『昼間2人のお熱い現場を聞いてしまいました』などとある研究員が暴露してしまったので、こりゃあもう明日は絶対に吐かせるっきゃないでしょう!と間違った方向に盛り上がってしまっていたのだ。
一人くらい止めてやる人間が居ても良いものだが、残念な事にこの研究チームの中にそんな当たり前の良識をもった人物は存在していなかった。
いや、本来は皆そんな良識を持った人間なのだろうが、3年もウダウダしていた揚句、最近は行きすぎた嫉妬を爆発させていたキールの被害にあっていた人物ばかりだったので、そこの所は対象外になってしまっているのかもしれない。
「お、そろそろじゃねーか?」
言いながら時刻を確認して、男性研究員が窓の外に身を乗り出す。
キールは毎日決まった時間キッカリにやってくるのだ。
だが
「あっれぇ?」
おかしい。キールの姿が見えない。
この研究施設は周りの建物に比べてかなり高い上、自分達の研究室はその最上階に近い位置にある。
なので研究施設に向かう者の姿はかなり遠くからでも確認出来るのだが、キールの姿はどこにもない。
見落としたかと施設の入口付近を確認するも、そこにも彼の姿は無かった。
「っかしいな、毎日きっかり同じ時間にくる奴なのに」
なんだか肩透かしをくらったような気分になって、頭をボリボリかきながら体を戻す。
同じようにキールを待ち侘びていた研究員達も「なーんだ」とつまらなそうな顔になった。
しかしその中にいてまだ1人、はは~ん…とニヤついた表情を崩さないでいる者がいる。
「なんだよエレナ、キールの奴来てないぜ」
そんな彼女の表情に、身を乗り出していた男ハルクは眉にシワを寄せる。
ハルクと同じようにつまらなそうな顔をしていた研究員達も、一斉に彼女に注目する。
「今来ないなら尚更好都合よ」
ふふふ…と笑みを浮かべながら言うエレナに、研究員達は疑問を隠しきれない。
「どうしてエレナ?」
その言葉の真意を知りたい、とノアが首を傾げる。
するとエレナは益々ニンマリと笑って、人差し指をたてた。
「あのキールが時間通りに来ないのよ?何時もと同じ時間に起きれないような何かがあったって言ってるようなものだわ」
「あ!そっか。それにいつも朝はメルちゃんに起こしてもらうとか言ってたから」
「そ、メルディまで起きれなくなるような何かがあったって事なのよ」
未だニマニマとした笑みを浮かべたまま、エレナはちちち、と人差し指を左右に振って見せる。
「こりゃキールが来るのが益々楽しみだな」
うんうん、と頷きながらカインが実に楽しそうに言う。
「聞かなくたってキールとメルディに何かあったのはわかるけど、確実に面白くなったわよー」
「あぁメルディちゃんっ!とうとうキールなんかのもんになっちまったのかぁ!!」
「ヘタレのキールがねぇ」
「マリーン言いすぎ!キールだって頑張ってたんだぞきっと」
「笑いながら言っても説得力ないわよ、ラグナ」
言いたい放題である。
「良いなぁ。そんなメルちゃん綺麗だろうなぁ。キールが憎い…」
「やっだエッチ!」
「・・・・バイバ」
と、唐突に響いた聞き慣れた声。
『・・・・・・・・』
皆一様に静かになる。
まさかまさか?ギギギ…と音が出そうな速度で声のした方を振り返る。
(まさかの展開-!!)
開けられた入口に立っていたのは、確かに先程まで話題に上っていた人物だった。
ただし、からかいたかった本人ではなく、その相手。
――顔を真っ赤に染めたメルディである。
「あ、あれぇ?メルディ、どうしてここに?き、キールはどうしたのぉ?」
メルディの表情を見ればバッチリ聞かれていたのは一目瞭然だが、それでも無理矢理シラを切ろうと頑張ってみる。
「そ、そうだね、久しぶりだねメルちゃん。なんだかまた可愛くなったんじゃない?」
シラを切るついでに話を逸らそうと頑張ってみる。
「そんなに大きな瞳で見つめられたら、俺どうにかなっちゃうよ」
手をとり腰に手を廻したところで
「なにをしているんだ!」
(薮蛇ーーー!!!!)
本日のメイン登場。それも全く願っていなかった形で。
絶賛嫉妬の病中のキールにこんな所を見られるなんて、一体なにを言われ何をされるのか!
インディグネィションくらい覚悟しといた方が良いかもしんない…。
(幻の裏インディグネィションとかじゃありませんように)
ハルクがそんな願いを抱いている間に、キールは奪い取るようにしてメルディを抱きしめると
「二度とメルディに触れるな!一切近づくな!!」
と怒声をあげてドアの外に飛び出して行った。
「---あれ?」
キールが飛び出して行き助かった筈のハルクだったが、何故かその目を真ん丸にして呆けている。
「・・・あれだけ?」
同じように大惨事を覚悟していた研究員達も、怒声を上げただけで去って行ったキールに驚きを隠せない。
ちょっと談笑しただけ、ほんの少し肩が触れただけで烈火の如く怒り、完全に据わった眼で威圧的なオーラを撒き散らしていた彼が。
あまつさえ無言でC.ケージを握り締めていた彼が!
メルディを抱き寄せていた相手に怒声をあげるだけで退散するなんて!!
「昨日までは嫉妬10割増しだったよなぁ?」
「昨日までのキールなら絶対インディグネィションだよねぇ」
「なんで急に・・・」
「やっぱりメルディが真っ赤になってた事から考えても昨日何かあって、それでって事なんじゃないかしら」
「メルディとイチャコラ出来たから落ち着いたっての?」
「・・・・・・」
ノアの一言に沈黙が走る。
「なぁ、多分皆同じ事思ってると思うんだけど、口に出して良い?」
そろ、と手を挙げたのはラグナ。
「え、えぇ」
そして彼は叫んだ。
「単なる欲求不満じゃん!!!!」
---と
『・・・・・・』
皆一様に目を反らしたのは言うまでもないだろう。
さてはて、ところ変わってこちらはキールとメルディ。
怒声を残し研究室を後にした彼等が今居るのは、少し離れた個室だった。
元々は研究員達が仮眠を取る為につくられた部屋で、午前中の今は使用する人もなく無人だ。
造り付けの棚に簡素なベッド、至ってシンプルな造りながら落ち着く空間にはなっている。
「まったく、油断も隙もあったもんじゃない」
可愛い人を胸に抱きしめて、キールは怒りの篭った声で呟いた。
「キール、苦しいよぅ」
ぎゅう、と顔を胸に押し付けられて呼吸もままならず、キールの腕をペシペシと叩いて訴えた。
「あ、す、すまない」
「とてもだいぶ苦しかったよー」
あはは、と笑う。
「…ハルクの奴、今度あんな事したらただじゃおかないぞ」
思い出すだけでムカムカする。
愛しい少女に、自分以外の男が触れるなんて有り得ない。
そんなの絶対に許さない。
「しかしメルディ、何故あんな事になったんだ?」
いかにハルクが軽口を叩くタイプの男だとは言っても、今まであんな事をしたことは1度も無かった。
メルディがキールにとってどんな存在かを良く理解していたし、そんな彼だから普段からメルディとは友達としての距離を保って接していたはずだ。
「あ、それは・・・」
だがそれを問われたメルディは顔を真っ赤に染めて俯くしか出来なかった。
説明をしたくても、何せ聞いてしまった会話が会話だ、どのように言ったら良いものか非常に困る。
しかしそんなメルディの反応を、キールは良からぬ方向で受け取ったようだった。
「なんだ?やはりハルクのやつ…!!」
「!!」
思わぬキールの反応に、『違う違う』と必死に首を振る。
しかし、そうするとやはり『じゃあ何なんだ』と聞き返されてしまった。
「あ、のな、多分、メルディのタイミングが悪かったよ」
「はぁ?」
「ハルク達、昨日キールが早く帰ったのはメルディと何かあったからだって話してたな。今日いつもの時間に遅れたのもそれが原因だって」
彼等の言わんとする事を明確に受け取ったキールは、ぽかんとした表情を浮かべた直後、これでもかというくらいに顔を赤く染めた。
(あいつら、それをネタに僕を弄ろうとか考えていたな…っ!?)
彼等がやろうとしていた事が手に取るように解ってしまい、目眩を覚えて片手で顔を抑える。
(な、なんて研究員達なんだ)
「だ、ダイジョブかキール」
ヨロリと傾いたキールの体に、メルディが焦って声をかける。
そんな彼女を見て、キールは余計にヨロヨロと体を傾かせた。
(大体、僕とメルディは、僕とメルディは・・・・・・まだ純潔だっっ!!)
そうなのだ。
あれだけ盛り上がっといて、結局1つになることは叶わなかった。
ただそれは、決してどちらかが嫌がったとかそういう訳ではない。
もっと言ってしまえば、しっかり2人ベッドの中まで入ったのだ。
昼間交わした口付けよりさらに乱れて唇を吸い、メルディの服を開けさせ、お互いの素肌を感じ、しっとりと濡れた感触を味わうところまでは順調だった。
しかし、メルディの体がまだ整っていなくて・・・。
つまり、あまりにも痛がって、最後の最後を越えることが出来なかったのだ。
メルディが涙を流して痛がるのに無理なんか出来なくて、結局昨夜は2人素肌で抱き合い眠りにつく事になった。
眠りにつく前にメルディが言った『メルディ頑張るから、だから・・・・・・』という言葉に頭が破裂しそうになって、結局眠りについたのは明け方近くになってしまったが。
昨夜痛みに必死で耐えていたメルディも、そんな疲れからか今朝は何時もの時間には起きられなかった。
だから今日は少し遅れての出勤となったわけである。
「はぁ・・・・」
まあこれも彼等にとっては絶好のネタになるのだろう。
彼等にとって、『キールとメルディに起こる全て』が自分を弄る種になるのだろうから。
「ごめんなキール、メルディがついて来たから」
遅刻のお詫びに差し入れでも、と一緒に来た結果がこうなってしまい、メルディは心底申し訳なさそうに謝った。
キールが力無くよろけているのも自分のせいだと思っているのだろう。
「違う。気にするなメルディ、お前のせいじゃない。どっちにしろ今日は始終あんな騒ぎだったはずだからな」
ふぅ、と溜息をついて、メルディの頭をポンポンと優しく撫でる。
するとふわりと微笑むメルディに、キールは胸の高鳴りを感じずにはいられなかった。
嫌でも目に入るベッドが余計に心拍数をあげるが、それはそれ。
とりあえず今は目の前にいる可愛い彼女に優しい口付けだけを贈り、その後は自分達が戻れば確実に騒ぎ出すであろう同僚達をどうするかを考える事にするキールなのだった。
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