※オリキャラが数人出ます、苦手な方は閲覧をお控え下さい。
※18Rでは全くありませんが、キスなどの表現があります。上に同じく。


身を切るようなセレスティアの長い冬もようやく終りを告げ、今は少し肌寒いが、暖かい風を感じることが出来る季節。
キールがセレスティアで生活を始めて3回目の春が訪れようとしていた。
3年もの月日が流れる中、変わったこともあれば変わらないこともある。
変わったことと言えば、インフェリアとセレスティアの間に連絡船が走るようになったこと。
それに伴う流通、交易の発達、2世界間の交流。
研究機関も合同、合併に伴い、いまやこの世界全体が大きく動こうとしている。

では変わらないことは一体何かと言えば、セレスティア側の人間で、ある2人を知っている者からすれば今1番の問題は確実にこの2人のことだった。
言わずもがな、キールとメルディのことである。
とかくキールにおいては1回目の春はすれ違い、2回目の春は素直になれず…といった具合で全く2人の仲に進展は見られず、『あぁもう一体何やってんだ!』と周りをやきもきさせるばかりであった。
じゃあ3回目の今回はどうなのか?
3回目の春は、どうやらややこしい病に侵されているようだった。


「おいキール、いい加減にしてくれよ・・・・・・」


研究室に溜息が響く。
周りの研究員達も『またか』という顔をして小さく溜息をついていた。
今年に入って何回目になるだろうか、すっかり名物になったそのやり取りに、ある者は呆れ、ある者は感心し、またある者は共感していた。


「そんなに気にする事ないだろ。メルちゃんだって男と話くらいするっつーの」

「その呼び方止めろよ!」

「だー!面倒臭ぇ奴だな!!キールお前最近変だぞ!」

「変じゃない」

「変だろうが。急に嫉妬深くなって、そりゃ前からヤキモチ焼きなとこはあったけど、ここ最近のお前の嫉妬深さは異常だぞ」

「・・・・・・」

3年目の彼の病。
それはキール本人にも抑制出来ないほどの、嫉妬の炎だった。


「やれやれ、一体どうしちまったんだか知らねぇがな。ちったぁ落ち着けよ」


いまだ資料に向かってカリカリしているキールに言いながら、チラリと時計を見遣ると、再び溜息をつきながら続けた。


「そろそろ昼だ。メルちゃん来る頃だろ、休憩入れよ」



ガタッ



言い終わる前に走っていってしまった。


「やれやれ」

「それにしても、本当に最近変よね。キールったら」


バタバタと走る音も聞こえなくなった所で、それまで傍観していた女性研究員が笑いながら言った。


「笑い事じゃないよ。この間だって、お昼を届けに来たメルディに挨拶しただけですっごい睨まれたんだぞ!」

「あらら」

「なんなのかねぇ」


今は此処に居ない彼を思い、研究員達はそれぞれ昼食を摂る為に散らばって行くのだった。


「メルディ!」


研究所の前で、昼食が入ったバスケットを両手で抱えている彼女に声をかける。
呼びかけた声に反応して、それはそれは嬉しそうな笑顔で迎えてくれた。


「キール、お疲れ様な!はい、今日のお弁当。一緒で食べよー」


ニコニコ、キラキラ。
正にそんな感じのメルディに、キールは胸の動機が治まらない。


「いつもの所が空いてるから、そこへ行こう」

「はいな!」


研究に使用されていない部屋で、メルディお手製の昼食を2人きりで摂る。
それがここ最近出来た2人の日課だ。


「重くなかったか?」


メルディが机に乗せたバスケットが、思ったよりも重い音を立てたのに気づき尋ねるが、彼女は「んーん」と首を振って笑うばかりだった。
前に1度メルディの荷物を持とうとしたのだが、やんわりと断られてしまったのだ。


「キールは研究頑張らないといけないからな。だからメルディはキールが研究上手くいくように応援するよ!」

「しかし、研究所と家は離れているからな。毎日じゃ疲れるだろ」


本当は毎日来て欲しいと思っているのだが、2人分の食事を入れたバスケットを持って、徒歩でやってくるメルディを思うと少し心配になる。


「ダイジョブだよぅ。それにメルディ、キールと一緒にご飯食べたいよ。毎日毎日、一緒がイイ」


ほんのり頬を染めて、柔らかな笑みを浮かべるメルディに、キールは愛しさを抑える事が出来なかった。
恥ずかしいのか俯いて頬を染めるメルディを引き寄せると、そのまま力いっぱい抱きしめた。

可愛くて、愛しくて、彼女が見せる1つ1つに、気が狂いそうな程の想いが込み上げてどうしようもない。


「好きだ」


何時からか、彼女を抱きしめている時のみ素直に言えるようになった言葉も、なんだか最近では物足りない。


「キール…」


彼女が自分の名前を呼ぶのを聞いてから、小さく息を吐き出した唇を塞いだ。
メルディの背中を壁に押し付けると、壁と腰の間に腕を滑り混ませた。
空いた左手の指をメルディの右手の指と絡ませて、それも壁に縫い付けるように押し付けた。
啄んで、何度も何度も角度を変えて、窓から入る陽射しがメルディの睫毛を輝かせるのを見つめながら唇を吸った。


「は・・・っ」


熱に浮かされたようにメルディが息を吐き出すと、それを待ち望んでいたかのように、キールの熱が腔内に入り込む。
未だ慣れない口付けにメルディの舌は上手く彼に答える事が出来ないが、それすら愛しいのかキールの熱情は増すばかりのようだった。


「ふ…ぅん…」


酸素が足りない息苦しさに、くぐもった声をあげてキールにしがみつくが、それは一層彼の熱を深く招き入れるだけの結果に終る。


「可愛い。メルディ、メルディ…」


酔いしれるようにメルディの唇を貪っていたキールは、僅かにその唇を離すと、絡ませていた左手をゆっくり離し彼女の輪郭を指先で撫でた。


「ん」


くすぐったいのか、眉を寄せるその表情に、先程までの無邪気さはない。
僅かに女の色気を増し、艶を帯びて誘うように匂いたっていた。


「メルディ」


輪郭を撫でていた指先で耳を擽るように撫でる。
それは愛撫のような動きでもって、2人の体温を更に上げていく。


「あっ…はっ…」


囁くように名前を呼ぶキールに、メルディは縋りつくように身を預ける事で答えとした。


「メルディ」


もう何度目かも分からないが、自分の名前を呼ぶ声に答えようと口を開きかけると、それは再び熱くて深い口付けに飲み込まれてしまう。


「んふ…んん…んっ」


そんなメルディの様子に、キールの思考は益々彼女のみに支配されていく。


(気持ちいい・・・)


唇に触れる柔らかさも、舌に絡まる熱さも、密着した肢体のただ淫猥な艶めかしさも、今まで感じたどんなものよりも甘美で快楽的だった。

しかし――


コンコンッ


不意に叩かれたノックの音に、急速に現実に引き戻される。


「キール、緊急で片付けないといけない資料が出てきたんだ。悪いんだけど早めに戻って来て」


ドア越しに聞こえた研究員の声に、しかたなく「分かった」とだけ返事をした。


「残念」


不意に現実に戻されて、真っ赤になっているメルディを優しく抱きしめる。
先程までの甘美さは無かったものの、彼女もそれに応えてくれた。


「すまない、考え無しだった」


よくよく考えたら、他の研究員が何十といる施設で、扉1枚隔てただけの部屋なのだ。
そんな場所で彼女に恥をかかせるところだった。


「ん」


キールの胸に顔を埋めたまま、メルディは小さく頷いた。
耳まで真っ赤にして、可愛すぎる。


「…じゃなかったよ」

「ん?」


細く、ごく小さな声で囁かれた言葉にキールは優しく聞き返す。
すると、顔を真っ赤に染めたメルディが少しだけ視線を上げて耳打ちの仕種をした。


「//////」


今更そんな事で顔を赤らめている場合じゃないが、可愛いメルディの仕種にキールは照れを隠す事が出来なかった。
そんな真っ赤になった顔を、メルディの口許まで下げてやる。


「嫌じゃなかったな。キールだから」

「!!」


思わぬ言葉にガバッと身を起こすと、そんなキールを見つめて恥ずかしそうに笑うメルディの顔があった。


「嫌じゃなかったから、だから今日は早く帰って来てな」


言葉に秘められたメルディの気持ちを受け取ったキールは、真っ赤になってメルディを抱きしめたのだった。


「なぁ、キールどうしちまったんだ?」

「・・・さぁ?」


嫉妬の炎が一転、そわそわして落ち着かないばかりか、ニマニマしてたり我に帰って焦ってみたり。
の割に手はしっかり動いている。


「落ち着かない割に自分の仕事も頼んだ仕事もしっかりしてんのよね…。倍速で」

「すまないが僕は今日早めに上がる」


後ろでヒソヒソやっている同僚に一言投げると、必要最低限の荷物を抱えて飛び出して行ってしまった。


「はやっ!!まだ夕方よ!?いつもだったら夜中まで研究してるくせに!」

「こりゃー昼間メルちゃんとなんかあったな」

「初心い匂いがプンプンするわぁ」


最後はこの一言で全員意見が一致した。


『よし、明日吐かせよう!!』


憐れ、キールに逃げ場はない。



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