※オリキャラが出ます、苦手な方は閲覧をお控え下さい。



「リッド~、これ欲しいよ~」

「はぁ?何言ってんだ、俺達の手持ち金考えろって。無理無理」

「え~!でもこれすっごく可愛いな。メルディこれ欲しいよ~」


店の前でワイワイ騒いでいる人の姿2つ。
しかしその一人はこの可愛い店の雰囲気に馴染んでいるとは到底言い難かった。
筋肉質な身体、少しぶっきらぼうそうな瞳、隣に居る少女がとても小さく見えてしまう。
そんな2人がさっきからワイワイ言い合っている原因は1つの小さなマスコットである。
店の前を通り掛かったメルディが、ショーウインドウに飾ってあった小さな可愛らしいマスコットを目敏く見つけて立ち止まってしまったのだ。
この灼熱の街「シャンバール」に入ったのは昨日の夜のこと。
残り少なくなった食材や道具なんかを買い揃えるには時間が遅く、どの店も閉店してしまっていたので今日一通りのものを揃えようという事になっていた。
そんなんで朝早くからファラはこの街でしか買えない食材を買い占めてくる!と手持ち金の半分弱を奪ってさっさと走っていってしまったし、キールは火晶霊について調べに行ってくると言って、チラチラとメルディを気にしつつどこかに出掛けて行った。
そうなると必然的にグミなんかの道具を買い揃えるのは自分の役目になるわけで、それを察知したメルディが自分も行く!と手を上げたので2人連れ立ってこうして店をハシゴしているわけだ。
そして現在に至る。

これが欲しい!と駄々をこねる少女と、それを断固として受け入れない少年の図。

通り過ぎる人達の目にはきっとこの騒ぎも微笑ましいものとして映るのだろう。
果たしてその関係は友達に見えるのか、兄妹に見えるのか、はたまた恋人同士に見えるのか。
身長差も面差しにも差がありすぎる2人ゆえ、それは見た者の捕らえ方に委ねられるのだが。


「ちょいとそこのお2人さん。そんなところで言い合いしてないで店に入っておいでよ。少しならまけてあげなくもないわよ」


さっきから延々と「買って!」「ダメ!」のやり取りをしている2人を見兼ねたのか、店の中から女主人がひょっこりと顔を出して笑いながら言った。
ニッコリと笑ったその顔はまだ若く、リッドやファラ達よりも3つ程年上のような感じである。
健康的な肌と、いかにも商売をしています、というような風貌が実に似合っている。
どちらかというと姐御肌タイプの女性のようだった。
そしてその手にはメルディに駄々を言わせている原因のマスコットがユラユラ揺れてぶら下げられていた。


「でも俺たち」

「良いから、こんなに可愛い彼女のおねだりを聞いてあげないなんて罪よ」


どうやら彼女はこの2人を可愛い彼女とその彼氏、として判断したようだ。
それが商売のための言葉なのかどうかは別として。


「カワイイってメルディのことか?」

「え?そうよ~。メルディっていうの?凄く可愛いよ」

「ワイール!嬉しいよ~!でもちょっと照れるな」


可愛いと言われてピョンピョン跳ねながら、今にも踊り出しそうなくらいに喜ぶメルディ。
そんな彼女を見た主人は、あれ?と不思議そうな顔をして首を傾げた。


「あれ、なぁに。隣の彼は言ってくれないの?駄目だよ彼氏~、未来の妻は大事にしなくっちゃ」

「なっ?!つ、妻!」


思わぬ彼女の発言に、リッドは照れるのも忘れて驚きの声をあげてしまった。
「未来の妻」などと、結婚をほのめかすような事を言われたのはこれが初めてだったからだ。
ラシュアンに居た頃は、常にファラが傍にいて、村人の誰もがこの2人は一緒になると思っていた。
そしてそれが当たり前だったので村の人も敢えてそんな事は口にしなかったのだ。


「妻、連れ合いがことか?」

「そうそう。何だ、意外に古風な言葉使うのね、メルディは」

「そかな~?メルディはこれが普通よ。そだ、なぁなぁ、あなたの名前教えてよ~」

「あ、そうね。私はアスカ、見ての通りこの店の主人よ」

「アスカ。キレイな名前だな」

「ありがと♪」


すっかり女同士打ち解けた様子で話し出す2人。
どうやらこれは益々あのマスコットを買わないわけにはいかなくなってきた。とリッドは一人遠くを見つめてしまうのだった。


「で?そっちの彼のお名前は?」

「リッド、」

「へぇ、強そうな名前ね~。で、こんな可愛い彼女のお願いを聞いてあげないの?そんなんじゃ逃げられちゃうわよ~」

「だーかーらー!俺とメルディはそんなんじゃねぇよ!」

「え?なんだ、違うの。凄く仲良さそうにしてたからそうだと思ったのに」

「仲良くって、兄弟かもしれないだろ」

「だって似てないじゃないの」

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」

「それにさ、言い合いしながら幸せそうな顔しちゃってたじゃない」

「なっ、そんなことねぇよ!!////」

「顔真っ赤にして言われてもね~。ちっとも納得できないわ」

「リッド顔まっかっかっかよ~」

「メルディ、『か』が多いわよ。リッド、あなた口ではいうけど顔は正直みたいね」


全くもってアスカには適わないリッド。
真っ赤に染めた顔で眉を寄せ、照れを隠したいのか不機嫌そうな表情のままムスッとして突っ立っている。
そんな彼をややからかうような瞳で見つめながら、アスカは楽しそうにマスコットを揺らして遊んでいた。


「ま、真相はともかく。可愛いメルディが欲しがってるんだから買っていってよ。少しなら負けても良いって言ったでしょ?本当なら1つ300ガルドなんだけど、メルディのこの可愛さに免じて1つ150ガルドでいいわよ」

「ワイール!ホントか?アスカ太っ腹なー!それじゃソレ下さい」

「お、おいメルディ。今の俺等は少しでも節約しなくちゃなんねぇんだぞ」

「お願いリッド~」

「2つ買ってくれたらもう少し負けちゃうんだけどな~。しかもおまけもついてくるわよ」

「な?な?おまけも付いてくるなんてステキよ!」

「ん~」

「ダメか?メルディ、リッドとお揃いでコレ欲しい」

「おそろいって////」

「あともう一押しよメルディ!」

「メルディ、リッドとお揃いのもの欲しいよぅ」

「・・・・・・」

「どうやらメルディの勝ちみたいね~♪」


どうも最近自分はメルディの『おねだり』に甘い気がする…と、リッドは半分納得いかないような顔をする。
しかし隣で瞳を潤ませて自分を見上げる彼女を見てしまえば、結局そのおねだりや我儘を聞いてあげたくなってしまう自分を自覚せずにはいられないのだった。
まぁ彼女の我儘やおねだりなんて数える程で、ほんの可愛い程度のものであるし、金銭に係わるおねだりなんて本当に稀なのだが。
それでも彼女の我が儘で多いと言えば、『自分も仲間に入れて欲しい』など、独りきりにされるのを極端に嫌がる部類のものだった。
それが彼女の今まで生きてきた中で生まれてしまった一種の傷のようなものだと痛いほどに感じるリッド達は、その悲しい我が儘だけはどうしても聞き流すことなどできずに全てを聞いてきた。
流石に『一緒に寝よ』とか『一緒にお風呂入ろうよ~』などのお願いは断ってきたが…。


「仕方ねぇな・・・・・・。今回だけだからな!今後は一切無しだ!」

「ワイール!嬉しいよ~!リッドありがとな」

「やったわねメルディ☆」

「はいな♪」

「んじゃこれ」

「まいど~。はいこれ、おまけ」

「なにか~?これ」

「ん?リングよリング、指輪。リッドとメルディでお揃いよ~♪まぁリッドはこういうのするの好きそうじゃないからこれも付けとくわ。この指輪を入れられる袋よ。首から吊せる様になってるし、剣でも腰でも好きなところに付けといてよ。そうそう、メルディの指輪と交換するってのも良いかもね~」


息つく間もなく一気に言うと、リッドの首に無理矢理小さな袋が着いた紐を引っ掛けた。


「指輪の交換?」

「そうよ。メルディ、リッドと指輪の交換してご覧なさいな。ずっと幸せで一緒に居られるわよ」

「それはイイな!リッド、指輪が交換」

「うぇっ?!おい、本当に意味分かってんのか?」

「意味ー?なにか?」

「あらやだメルディったら可愛いんだから。指輪の交換はインフェリアの男女の常識でしょ~?」

「んー?」


アスカの言葉に首を傾げるだけで、メルディは一向に理解した顔をしない。
指輪を見つめたまま頭には沢山の疑問符を浮かべていた。
どうやらセレスティアには指輪の交換をするという風習は無いようだ。


「これを交換したら、メルディは俺の嫁にならなきゃいけねんだぞ」

「嫁。妻?」

「そうそう♪メルディはリッドの連れ合いになるのよ」


実際問題この指輪を交換したところでそれが絶対厳守のエンゲージリングになるということは無いのだが、それでも指輪を交換するということはこのインフェリアでは大きな意味を持つ。
指輪を贈るという儀式はその人と一緒になる未来をかなり強く持っている2人の間でしか行われないのだ。
そして指輪を交換した2人の99%は実際に結ばれる。
街や村や王都、インフェリアでお揃いの指輪をしている男女を見掛けたらそれはもう間近に結婚をする2人なのだと認識されるので、まだ結婚を強く意識していない2人は絶対に指輪の交換をしないものなのだ。


「メルディがリッドの妻になるか」

「メルディ、インフェリアで指輪の交換ってのは凄ぇ意味を持ってんだ。簡単にはできねぇんだよ」


何だか今にも「じゃあ交換しよ」などと言いだしそうなメルディに向かって、リッドは赤くなるやら青くなるやらで耳打ちをした。
しかしそれを囁かれたメルディは、ますます不思議そうな顔をしてリッドを見上げるばかりだ。


「メルディはリッドの連れ合いがなりたいケドな…」

「なっ!!」

「やーだ、リッドの片想いかと思ったのに。しっかり愛されてるんじゃないの」

「だーっ!良いから!もぅ行くぞ」

「えー?!私に結末を見せないまま帰るのー?」

「うるせ。ほらメルディ行くぞ」

「は、はいな~。じゃあまたなアスカ!ほんとにありがとー」

「いえいえ」


グイグイと腕を引っ張られながらメルディはアスカに向かって大きく手を降って笑う。


「アスカ!これと同じ袋1つくれ」

「さっきリッドにあげたやつ?こんなので良いならいくらでも。はい」

「サンキュ」

「いいえ。また来て頂戴ね」



バタンッ



騒がしかった店内に再びぬるい静寂が訪れる。
そんな中でアスカは1人スタスタと歩いていく2人の後ろ姿を見つめてクスリと笑いを零した。
そして


「結局リングの交換はするみたいね」


と呟いてクスクスと笑いを零すのだった。


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