よく考えたら、こんな狭いテントの中で4人が寝てること自体なんかおかしいだろ。
だってこのテント、3人用なんだぜ?


「なんでもっとでかいテント持ってこなかったんだよ」

「だって!家にはこれしか無かったんだもん。それにこれ以上大きいの持ってくと重くて大変じゃない!」


ファラの言う事はもっともだ。
旅をするにあたって、あまり大きな荷物を持って行く事は好ましくない。
それは分かっている。分かっているが・・・・・・
でも、それでもこっちにしたら支障をきたすこともあるんだ!


「ところで、なんで急にそんな事言い出したの?」


ファラの疑問ももっともだろう。
既に長い期間をこのテントで過ごしているというのに、初日に気にしていなかったことを突然言い出したのだから。


「えっ、いや」

「・・・・・・」


しどろもどろとするリッドに、キールが何か言いたそうな顔をして視線だけをぶつけてきている。


「何だよキール」

「別に」

「変なリッド。まぁいいや、私夕飯の準備してくるからね」

「おう」


解せないなぁ。
という顔をしながらも、ファラは夕飯の支度をすべく台所に入っていった。
遺されたのはキールの隣でこっくりこっくり船を漕いでいるメルディと、そんなメルディを肩で支えているキール。
そしてしどろもどろのままのリッドだった。
ファラが台所に消えて行くのを見届けリッドが思わず溜息を1つ漏らした時、唐突にキールが言った。


「リッド、メルディに変な気を起こすなよ」

「な、なんだよ」

「分からないフリをするのは別にいいさ。でも、もしメルディに手を出してみろ。遠征の橋から叩き落とすからな」

「お前なぁ!仲間にそういうこと言うなよ!!」

「仲間だから言うんだ。全くの赤の他人がメルディに手を出したならソイツを始末すれば一応気は治まる。でもそれが知ってる奴だったりしてみろ、それだけじゃ気がすまないだろう」

「ったく質の悪い奴だな」

「うるさい」

「ところで、お前も手を出さないんだろうな」

「は?」

「俺がメルディのこと好きだって知っててそういうこと言ってんだろ?じゃあお前にも俺は同じことを言うぞ。お前も手を出さないんだな?」

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」


リッドの問いに長い沈黙で答えるキール。
その顔に「それはどうだろう?」というような表情が浮かんでいる。


「おい!!」

「分かったよ」

「ったく油断も隙もねぇ奴だなお前は。ジイニでお姉様がたに真っ赤になってたお前は偽物か?純情ぶってたとしか思えないぞ」

「なんてこと言うんだ!」

「だってよ~。今のキール見てたら皆そう思うぜ?キレイな姉ちゃん見て真っ赤になってた奴が夜這いを企んでるなんてオカシいだろうが」

「よ、夜這い?!」

「デカい声出すなよ、メルディが起きるだろ。大体今だってその手は何なんだよ」


キールの手は、肩にもたれて眠っているメルディをしっかりと抱いているのだ。
それがリッドには非常に気に食わない。


「日常生活でこんなにストレス溜められたんじゃ責任もてないぜ。あんなせっまいテントの中でメルディが密着してくんだぞ」

「リッドお前・・・・・・」

「キスの1つもしたくなるっての」

「きっ!!」

「んだよ、キスくらいで済んだら奇跡だぞ」

「リッド・・・・・・」

「ぅわっ!!なんだその顔!!!」


キールの顔は、憎悪にも似た表情で今まで見たこともないくらいに恐ろしく歪んでいる。
もしも今この場にモンスターがいるとしたなら、その顔だけで勝利を収めることが出来るであろう。


「絶対にそんな事させないからな…」


これもまた聞いたことも無いような地を這うような声で言うと、メルディの肩を抱いていた手に力を込めて彼女を自分の方へ抱き寄せる。
しかしこの行動が再びリッドのカンに障ってしまった。


「お前、さっきから何やってんだ」

「何って、メルディをお前から守ってるんじゃないか」

「何が守ってるだ。お前の方が危険だろうが!!」

「なに?!」


始めこそ眠っているメルディを起こさないように小声で言い争いをしていた2人だったが、段々言い合いに熱が入ってしまい、ギャンギャンと騒ぐ声はキッチンに立つファラの耳に届くくらいにまで大きくなっていた。
そうなると当然その場にいるメルディの耳に入らないわけもなく、響き渡る大声で彼女の眼は覚めてしまったようだった。
しかし、口喧嘩が白熱している2人は彼女の目が覚めてしまったことに全く気がつかない。


「リッド?キール?どしたかぁ?」


メルディが眠たげな眼を擦りながら聞いても、その声は2人の耳には入らないようだった。
そんな2人に少し不安を覚えたのだろう。
メルディは少し泣きそうな顔をして、その大きな瞳を僅かな涙で潤ませた。
なんだか寝起きで何時もより感情の波が激しいようだ。


「リッド!キール!なぜケンカしてるか、止めるよぅ!!」

「め、メルディ…?」

「目が覚めたのか」

「2人がケンカしてる声で起きたよ。どしたか聞いたのに聞こえてないみたいだったから…」


そう言って潤んだ瞳を何回か瞬かせると、うっすらと光っていた涙が1粒転がり落ちた。
しかし別に悲しくてどうしようもないという訳では無いのだろう。
零れた涙はその1粒きりであったし、その涙の粒もそんなに大きな粒では無かったから。
それでも彼女の瞳から小さな涙が零れたのは事実で、その原因を作ってしまった2人は気まずそうに互いの顔を見つめた。


「―――ごめん」

「ごめんな。メルディ」

「んーん、メルディも泣いたりしてゴメンな。ビックリさせたよ」


取り敢えず2人の喧嘩は収まったらしいと安心したのだろう。メルディは恥ずかしそうに涙の跡を擦ると、ニッコリ笑って2人を見上げた。

自分達は滅法この笑顔に弱い――。

リッドとキールはそんなふうに思いながら、メルディの笑顔を見つめて少しだけ頬を染めた。


「なに騒いでるの?キッチンまで言い争う声が聞こえてきたよ」


3人がそれぞれ思うところあってなのだろう。
少しだけ妙な空気を持った空間を破ってファラが声をかけてきた。


「あ、ファラ。ダイジョブよ!リッドとキール仲直りしたよ」

「ってことはやっぱり喧嘩してたんだ?ダメだよ2人とも、メルディが寝てるところでそんなことして!」

「言葉もないよ・・・・・・」

「で?何で喧嘩なんかしてたの?」

『え、』

「え、って?」

「メルディも知りたいよ。どうしてケンカしてたのか?」

「それは――」

『 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 』

「なんなの?」

『何でもないっ!!』

「えー?!何でも無いのに喧嘩するのぉ?」

「なんでも無いったら何でもないんだよ!」

「なんなのよー!!」


結局、喧嘩の原因が解明されることは無く。
逃げるようにダイニングに行ってしまった2人の背中を見ながら、ファラとメルディは首を傾げるばかりなのだった。


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