ゆらゆら揺れる。
キラキラ光る。
言葉を繋ぐ小さな飾り。
繋いでいるのは、言葉だけ・・・・・・?
インフェリアにしてみれば暗い朝。
隣で寝ていたはずの幼馴染みは既に朝食の支度に取り掛かっている。
ではもう一人の幼馴染みはといえば、これもまた普段通りに大木に寄り掛かって朝から分厚い本を食い入るように眺めていた。
よくもまぁ朝からあんなに分厚く難しいことばかりが羅列されたものを眺めていられるものだと思うが、それを口にすればまた彼から長いなが~い彼的理論を聞かされることになりかねないのでそこは黙っておくことにする。
さてそれではこの旅をするキッカケを造った少女は?と狭いテントの中を探せば・・・・・・。
薄い上掛けに包まって、まるで小動物のように丸くなっている彼女の姿が目に入った。
なにもそんなに身体を丸めて寝なくても良いのに。
いつだったかファラが苦笑交じりに言ったのを覚えている。
眠る彼女の顔が苦痛や悪夢に歪むことは無かったが、それでもこの目には彼女が寝ている間にも何かを必死で堪えているように見えて仕方なかった。
せめて眠りの世界にいるときは、何もかもを手放しで喜べるような幸せだけに包まれた世界に居てほしいと思うのに。
セイファートはそれすらもこの少女に許さないというのだろうか。
そんな風に起きぬけの頭で思っていると、視界の隅にキラリと光る何かを認めて首を傾げる。
「何だ?」
光を受けて輝くそれは小さく、寝ているメルディの頭のすぐ横に落ちていた。
寝ている彼女を起こさないように細心の注意を払いながらそっと近づくと、キラキラ光るそれを摘み上げてみる。
「なんだ、オージェのピアスか」
そういえば昨晩メルディがこのピアスを綺麗にすると言って手入れをしていた。
あらかたその途中で眠くなってそのまま眠ってしまったのだろう。
「大事なもんほったらかして寝るなよ」
深い眠りの世界にいるのか自分の気配にも全く目を覚まさないメルディの傍らに腰をおろし、ふわふわと耳を隠す彼女の髪を優しく掻き上げると、案の定彼女の耳にピアスは無かった。
「起きねぇ、かな?」
ピアスを見、彼女の耳を見、これをつけてやるべきかどうか迷って唸る。
「ん~…?」
うんうん言う不審な声が耳についたのか、メルディが小さく身をよじって頭を動かした。
その拍子に掻き揚げた髪が再び彼女の耳にふわりとかかり、彼女の耳に伸ばしかけていたリッドの指にも軽く触れる。
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
何だかとても恥ずかしいことをしているような気持ちになってしまって言葉も出なくなってしまった。
耳まで熱くなるのが感じられて余計にこの何ともいえない微妙な気持ちが大きくなってしまう。
「ん~」
しかし彼女は再び身をよじるとそのまま眠りの世界に連れ戻されて行ったようだった。
おかしな安堵感が胸に広がり、リッドは真っ赤になった顔を冷まそうと一旦テントの外に出る。
涼しい風に吹かれてホッと溜息をつけば、それを目敏く見つけたキールが眉根を寄せて不審そうな顔をしたのが見えた。
そして同じくリッドの未だ覚めやらぬ顔を見つけたファラが可笑しそうに声を上げる。
「なぁにリッド!顔が真っ赤だよ!!あ、メルディに何か変なことしたんじゃないでしょうね!!」
「なっ!なに言ってんだよ!このバカ!」
「そんな真っ赤な顔で否定されても説得力ないぞ、リッド」
慌てて否定するリッドを横目に、キールが冷たく言い放つ。
それに言い返そうとして拳を強く握れば、そこにはメルディのピアスがそのまま握られていた。
「・・・・・・いいよもう」
掌に馴染む小さな装飾品を感じ、リッドは一人テントの中で眠る彼女の顔を思い出して口喧嘩を中断させる。
そして一言、キールに向かってこう言った。
「なぁ、メルニクス語で『おはよう』って何て言うんだ?」
起きたら言葉が分からなくなっているであろう彼女に、その一言を伝える為に。
――今できる、ほんの些細な、本当に小さな事。
それはおそらく、目覚め始めたほのかな光のために…。
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