『お元気ですか?
忌まわしい戦いから1年。空から消えたセレスティアと、ここインフェリアを繋ぐ定期連絡船も着々と人々の中に浸透しつつあります。
定期連絡船の施設が出来上がったばかりの頃は、それを使用できるのは連絡船の施工に関わった研究員や学者のみでしたが、この程やっと民間人も連絡船を使用する許可がおりました。
今まで民間人が定期連絡船を使えなかった事に対して批判の声もありましたが、それはまだ研究段階で実質上の試運転段階だった船に国民を乗せて、万が一の事が起きてはいけないというアレンデ姫の気遣いでもあったのです。
人の上に立つ誰かには、必ず批判がついて回るもの。
アレンデ姫はそう言って笑っていました。
最近の彼女は益々強く良き王女として成長していると、マゼット博士も嬉しそうにおっしゃっています。
そうそう、私の仕事も一段落つきました。
約束通り今日でる連絡船でそちらに向かう予定です。
リッドは週末が待てなくてそわそわしているみたいです。
では、会えるのを楽しみにしています。 ファラ』
「ワイール!ファラ達来るよ~♪」
チャットから受け取った手紙を読み終えると、メルディは嬉しくて堪らない!といった様子で跳び跳ねた。
「僕の船でちょくちょくお二人をお連れできれば良いのですが、生憎と僕は定期連絡船の操縦士を育成する講師として呼ばれてしまっていますので…」
「んーん、良いなチャット。これから定期連絡船もっとい~っぱい増える。その操縦士さん居ないは困るよ。それにセンセイに選ばれるなんて凄いよー!!ガンバってな」
「はい、この僕が直々に教えるんです。一流の操縦士を育ててみせますよ!」
「やれやれ、相変わらずたいした自信だな」
「どういう意味です」
「なんでもないよ」
ニコニコしてキールとチャットのやり取りを見ていたメルディは、ハタと時計を見て声をあげた。
「バイバ!!もぅこんな時間だよ!キール研究室は行かなくて良いのか?」
「え、うわっ!ヤバイ」
バタバタと必要な書類やら道具やらをまとめると、キールは走るようにしてドアから飛び出して行った。
「相変わらずなのはキールさんも一緒ではないですか」
「あはは!そだな~。チャットは?今日はずっとここに居られるか?」
「ええ。明後日からインフェリアで指導を開始しなければならないので暫く此処に来る事が出来なくなってしまいますが。今日は一日こちらにいて、明日またインフェリアに向かいます」
「うん、分かったよ」
「それにしても、キールさんとメルディさんはてっきり一緒に住むものだと思っていましたが…」
そう、セレスティアに戻ってきてすぐの頃こそ一緒に住んでいたメルディとキールだったが、アイメンの街が復興し元の町並みを取り戻してからは、二人別々に住んでいるのだ。
と言っても、キールの家はメルディの家から五歩も行けばつく言わばお隣りさんな場所に建っていたし、放っておけば食事すらまともにしない彼なのでメルディがキールの所へ行ったり、キールがメルディの家に来たりしているので、寝る時と仕事中以外は同じ部屋で暮らしていると言っても良いものだった。
「そんな風に過ごすなら同じ家に住んでしまった方が良いような気がしますけどねぇ」
「ダメよー。もしキールは好きな子できたらどうするか?メルディと住んでたらタイヘン!!」
「メルディさんて天然ですか?」
「はいな?」
「残酷ですね…」
成る程、メルディにとってキールはそういう対象ではないらしい。
「ん?そろそろ定期連絡船が到着する時間ですね。迎えに行きましょう」
「はいな♪行こう~」
時計を見て確認すると、チャットはメルディに声をかけてドアを出る。
1日2本の定期連絡船には沢山の人が乗っているはずだ、早く行っておかないと人込みに紛れてしまって2人を見つけられなくなってしまうかもしれない。
まぁリッドとファラはメルディの家を知っているので迎えに行かなくても平気なのだが、それでも久しぶりに会う友達の顔は少しでも早くみたい。
「2人共変わってないかな~?」
「変わってませんよ。特にリッドさんは」
インフェリアでしばしば顔を合わせることがあったチャットは苦笑ぎみに言う。
昨日もセレスティアに来る直前にリッド達に会って来たのだが、その時のリッドったらもう見ていられなかった。
明日は遂にセレスティアに行ける、前回チャットの船でセレスティアに渡ったときはメルディとキールの仲がそんなに進展しているように見えなかったが、それから随分と月日が経っているので今回は分からない!と煩かったのだ。
「メルディさん。リッドさんに会ったら何かされないように気をつけてくださいね」
「ん?んー。はいな…?」
何でそんなことを?とメルディは首を傾げる。
「久しぶりにメルディさんに会うんで、リッドさんが何を仕出かすか分かったもんじゃないですからね」
「んー…?」
(嬉しさのあまり抱きしめるくらいならまだしも、勢い余ってキスまでしかねないですからね。全く普段はダラダラやる気なさそうなくせに、そういうこととなると見境ないんですから)
チャットは「はぁ」と呆れたような溜息をついたのだった。
☆-★-☆-★-☆
「メルディ!!」
「ファラー!!!!」
定期連絡船から下りてくる群衆の中から、メルディを呼ぶ女の子の声がした。
声がしたほうをキョロキョロと探すと、向こうの方でブンブンと手を振っているファラの姿がある。
その後ろではリッドが尋常ではない大きさの荷物を抱えてウンウン唸っていた。
「やっと会えたね!メルディ元気だったー?会いたかったよぉ」
「ワイール!元気だったよ!ファラも元気だったか?」
「うんうん、元気だよ~」
「チャット、手紙渡してくれてありがとうね」
「いいえ。お安い御用ですよ」
「おいファラ!この荷物運ぶの少しは手伝えよ!!」
ファラとメルディが感動の抱擁を交わしていると、後ろからリッドが苛々した声で怒鳴った。
背中にはでっかい荷物を背負い、両手にもこれでもか!と言わんばかりの荷物をぶら下げている。
「ファラー、前も凄かったけど今回も凄いな!!」
「えへヘ、久しぶりだと思ったら色々お土産がね。インフェリアでしか手に入らない食料とかも持ってきたの。定期連絡船で運ばれて来るとは思うけど、まだ高いだろうしね」
「キール喜ぶな~」
「ねっ!」
「ねっ!じゃねぇよ。ったく人にばっか荷物持たせやがって」
「だってメルディと早く会いたかったんだもん」
「それは俺も同じだっつーの」
ドカッと荷物を下ろすと、リッドはとても愛しいものを見る瞳でメルディに笑いかける。
「久しぶり」
そう言った彼の声音が凄く優しくて、メルディは心臓が踊り出すのを感じずにはいられなかった。
「ん、久しぶりだな」
僅かに頬を染めて、メルディは極上の笑顔で返す。
その笑顔を見た途端、リッドは耐え切れずにメルディを腕の中にしまい込んだ。
強すぎず、弱すぎず、大事なものを抱きしめる。
「ちょっとリッドー!メルディ独り占めしないでよっ!!」
「少しくらい独り占めさせろ」
腕の力を緩めることはなく、ただそこに居るメルディの存在を確かめるように抱きしめている。
そんな彼の腕の中で、メルディは破裂しそうな胸を抱えて苦しんでいた。
離れて初めて分かる想いがあるとは知っていたが、こんなに切なくて幸せな気持ちになるなんて思わなかった。
「会いたかった。会いたかった…メルディ」
「リッド…」
耳元で囁かれる名前に、メルディも彼の名前を繰り返す。
周りには大勢の人達がいるのに、誰か自分を知っている人が見ているかも知れないのに、それでも抱きしめられた腕から抜け出すことはしたくなかった。
「会いたかったよ。リッド」
もう一度だけ彼に聞こえるように言うと、リッドはほんの少しだけメルディの身体を離すとその瞳を覗き込んだ。
そして彼女の唇を塞ごうとゆっくり顔を近づける。
----が
「ストーップ!!!」
「ンなっ!何だよチャット!」
良いところでストップをかけられたのが余程許せないのだろう。リッドは凄い剣幕で振り返る。
「そこまでです。続きはメルディさんの家で、僕たちが居ないところでお願いしますよ。それにこんなところであっついキス何かされると周りの迷惑になりますんで」
「は、え…」
言われて周りを見回せば、チラチラと人が自分達を見ている。中には親と手を繋ぎ、赤い顔をして「キャー」と声を出す子供までいた。
「バイバ!!」
顔を真っ赤にしたメルディがそそくさとリッドの腕の中からすり抜けようとする。
見られているかもしれないとは思ったが、こんなにも視線を集めていた事に気がつかなったのだ。
「リッド!何時までメルディの事独占するつもりなの!私だってメルディの事大好きなんだから!!」
横ではファラが怒り心頭!という感じで怒鳴っている。
しかしリッドは腕をすり抜けようとしていたメルディを捕まえると、軽く触れるだけのキスを彼女の唇に贈った。
本当はもっと強く彼女の唇を吸いたかったが、ここは優しく触れるだけで我慢だ。
「リッドーー!!」
「リッドさんっ!!!」
リッドの唇がメルディのそこから離れると、顔を真っ赤にして怒鳴るファラとチャットの声が響き、同じように顔を真っ赤に染めたメルディの少し拗ねたような表情だけがリッドの中に残ったのだった。
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