「クィッキー♪」

「ほらほら、こうだなクィッキー♪な?うまくいったよ~」


クルクルと軽いステップを踏みながら、柔らかな陽射しの中を円形に移動していくメルディ。
その周りをピョンピョンと跳ね回りながら纏わり付いているのは、青くて尻尾の長い可愛らしい動物クィッキー。
それとあともう1つ、そこから少し離れた場所に心地良さそうに寝転がって、華麗に舞い踊る少女を限りなく優しい瞳で見つめるリッドの姿。
新しいステップを思い付いたと言って踊り出したメルディは、一応満足のいくダンスが出来たのであろう。
クルリと1回ターンを決めてステップを踏むのを止めた。
跳ね回っていたクィッキーも、彼女の動きが止まったのを認めると一応静かになる。


「メルディ?何だ?もう終わりか?」

「はいな、ちょっと休憩~。たくさんダンスしてメルディちょっとだけお疲れよ」


そっか、と笑みを浮かべて答えたリッドは、ポンポンと自分の隣を叩いて彼女に座るように促した。
メルディはそれに素直に従い腰を下ろす。
すると彼はさもそれは当たり前のことなのだというような動作で彼女の膝の上に頭を乗せて浅い溜息を1つ零した。


「眠いか?」


その溜息が決して退屈しているわけでも、ましてや何かを不満に思ってついたものではないと分かっているメルディは、優しく彼の髪を撫でながら問う。


「んー・・・・・・」


そう少し気の無い返事をしたリッドは、自分の髪を撫でていたメルディの手を優しく捕まえると、そのまま自分の唇に近づける。
そんな彼の行動にも、彼女は慣れっこなのか言葉を発することも、その手を引っ込めることもしなかった。


「平和だよな~」


ポカポカと暖かく照らす太陽があって、こうして間近に温もりを感じられる存在があって、「こんなに幸せでごめんなさい」と世界中の人に謝らなくても良いのだろうか?


「平和良いこと。皆が幸せ、とっても素敵な♪」


彼の独り言にニコニコと笑って答えるメルディに、リッドは心底この世界を救って良かったと思う。
この笑顔を見るとあの戦いで背負ったものだって軽く思えてしまうから不思議だ。


「そうだな。それにメルディのそんな顔も見られるしな」

「そんな顔?なにかー?」

「ん?メルディの嬉しそうな顔だよ。俺はメルディが笑ってるの見るのが好きなんだよ」


もう一度メルディの掌にキスをすると、メルディは恥ずかしそうに頬を染め、それでも嬉しそうな顔をする。
お互いの思いが通じ合って、もう深い関係になっているのに彼女のこういうところは変わらなかった。
ちょっとしたことで幸せそうな顔をし、ちょっとのことで頬を染める。
そんな彼女を見ていると幸せになるし、なにより「あぁ、好きだな」と再確認するのでリッドはメルディのそんな表情の全てが大好きだ。


「可愛い奴」


ククク、と笑いを噛み締めて彼女の頬に手を伸ばす。
触れた頬はほんのり暖かくて、柔らかな感触に思わず笑みが零れる。
桜色の唇に触れて、口付けを交わそうと彼女を少し強引に引き寄せる、が


「クィッキー!!」

「うわっ?!」


メルディに何をする!
といわんばかりの勢いで突っ込んできた青い動物に阻止されてしまった。


「お前なぁ、いい加減俺の事も認めてくれよ」

「あはは、クィッキー嫉妬してるか?ダイジョブだよー。メルディが1番はクィッキーな」

「クィッキー♪」

「はぁ?!俺は!?」


彼女の口から出た言葉にショックを受けたリッドは慌ててメルディを問い詰める。
しかし彼女は笑っているばかりで何も言ってはくれない。


「メルディ~?」

「はいな、なにか~?」


少し恨めしそうな声で彼女を呼べば、メルディはとぼけた声で返事をしただけでやはり「リッドが1番」とは言ってくれなかった。
それにむくれて、そういうこと言うならもう知らねぇ、というようにそっぽを向いてしまう。


「俺はこんなにメルディのことが好きなのに。メルディはクィッキーのほうが良いんだな」


それどころかそんな事を言ってまるで子供の様な駄々をこね始めてしまった。
どうしてこう変なところで妙に子供っぽいのだろう?
ふて寝をしているリッドを見つめて、メルディは困ったような笑みを浮かべて彼のご機嫌取りをしようと彼の顔を覗き込む。
しかしリッドは拗ねた顔をヒョイとそらしてメルディの瞳から逃げてしまった。


「リッド?ご機嫌なおしてよ。メルディ、リッドのこととってもとっても大好きよ?」

「でもメルディの1番はクィッキーなんだろ?」


我ながらとても大人げない子供じみたことをしていると思っている。
しかし、メルディの1番はいつだって自分であって欲しいのだ。
誰よりも、何よりも大好きと言ってほしい。


「確かにクィッキーはメルディの1番。でもな、リッドとクィッキーの好きは違うよ。クィッキーは一緒にいると楽しくて嬉しいそんな好き。でもリッドは一緒にいると胸がキューってなって幸せになる。特別な好き」

「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」


反則だ、そんな風に言われたら観念するしかない。
好きな女の子に「あなたは特別だ」と、そう言われて喜ばない男が居る筈がないじゃないか。


「なぁリッドこっち向いてよ」

「~~~っ」

「メルディ、リッドの顔見たいよ」

「・ ・ ・ ・ ・ ・//////」


甘えるような声でお願いされて、不覚にも顔が真っ赤に染まる。
可愛い声で甘えるようにお願いされて、これ以上無視するなんて出来ない。
今すぐ彼女の方に振り向いて抱きしめて、その唇を塞いでしまわなければ。


「ズルいよなメルディは」


言うなりグイ、と彼女を引っ張って、憎らしい唇を強引に塞いでしまった。


「――・ ・ ・ ・ ・ ・ 」


たっぷり数分彼女の唇を味わったリッドは、息も絶え絶えになっているメルディを抱きしめる為にムックリと起き上がった。


「メルディずるくなんか無いよー」


ぷぅ、と頬を膨らませる彼女を見て、不覚にも笑みが零れてしまう。
全く、なんだって自分の彼女はこんなに可愛いのだろうか?
今すぐここで抱いてしまいたい衝動にかられてほとほと困り果ててしまう。
でもまさかそんなそんなことしたら彼女のご機嫌を損ねてしまい、怒ったメルディが今夜といわず下手すれば一週間以上触れさせてくれなくなるのは目に見えているのでここはグッと我慢する。


「いいや、ズルいぞメルディは。俺がメルディのお願いを断れないって知ってるんだからな」

「そんなことないよぅ」


そんな甘いやりとりをしながら、リッドはう~んと喉を鳴らす。
ほんの些細なことでこんなにも心動かされてしまって、これが恋をしたときの「心が踊る」というやつなのだろうか?
まぁ「心が踊る」というよりも「心を踊らされている」と言った方が適切な感じもするが。
しかしなんだかそれも悪くはないような気もするし。


「ったく、俺って奴は」

「ん?なにかリッド?考え事か?」

「ん、そうだよ。教えてやんねぇけどな」

「リッドけち~」


まぁ何でもいいや。取り敢えず幸せだし?
心が踊るでも、心を躍らされてるでも、それがメルディによるものならどっちだって変わりない。
彼女がダンスのステップを踏むのなら、俺もそれについていく。
ジイニでだって一緒に踊れたし。

これからも、一緒にステップを踏んでいきましょう?

2人一緒に居られるなら、どんなステップだって軽く覚えてしまえそう。


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