どうも最近、気が付くと自分はメルディを見つめているらしい。
今日も夕飯の後、珍しく全員が揃ったままの食卓で「行儀が悪い」と叱られながらも頬杖をついていたら


「リッドさっきからメルディの事ずーっと見てる。メルディ何かヘンか?」


と彼女自身から言われてしまった。
言われて驚いたのは自分で、まったくそのつもりも無かったのに30分もの間彼女の方を見つめ続けていたと言うのだから心底驚いて言葉も出なかった。
しかしそれならそれでどうしてもっと早い時点で言ってくれなかったのだと他2人を問いただせば、ファラは面白かったから何時まで見つめ続けているのかこっそり時間を計っていたと言うし、キールは気にはなっていたがリッドの事だから目を開けて寝ているか、ボケッと焦点も合わないままに呆けていたのだと思っていたなどと言った。
ファラはともかくキールの言い分には

『嘘をつくな嘘を!ちょっとしたことで嫉妬焼くくらい、想いを寄せているメルディを俺が見つめ続けていたのに、お前がそんな悠長なことを考えるわけがないだろう!!』

とか思ったが、ここで口論をするのも面倒臭いので黙っていることにした。
しかしそれにしても、ファラに聞けばこうしてメルディのことをボケーッと見つめていたのが今日この場だけのことでは無いというから余計に驚きだ。
酷い時など1日中メルディのことを追い掛けていたこともあったらしい。
それだけ彼女のことを視線で追っていたのに、どうして気が付かなかったのだろう。
否、そういえば最近何だかやたらと視界の中にメルディが入ってくるなーとか、最近やたらとメルディの行動パターンに詳しくなったなーとか、そう思ってはいたが、なるほどそういう訳だったのか。
完全な自己完結でことに決着をつけたリッドはうんうんと頷いて納得の姿勢を見せる。
全くなんで今まで気付かなかったのか。
というより言われなければ永遠に気付かなかったかもしれない。


「勝手に解決しないでよ」


ファラが面白くなさそうに言うと、キールがテーブルの上に広げたままにしていた本を乱暴に閉じてそれに同意した。
リッドがメルディを見つめていたことをかなり気にしているようだ。


「勝手に解決とか言うなよ。でも、そうか。うんうん」


最近やたらとメルディのことが気になっていた理由も分かったし、常に彼女を追っていた理由が分かったのだから、合点合点と頷くのも仕方ないではないか。
学問への探究心の塊なキールと違って、それなりに男女のどうのこうのとか言うやつにも興味もあったリッドなので、自覚すればその先は非常に早い。
牛歩並の歩み寄りしか出来ない照れ屋で天邪鬼なキールさんと違い、自覚のある素直な青少年は恐ろしいのだ。


「リッドー?リッドはメルディがこと見てたはメルディがヘンだからじゃないか?」

「あー、違う違う」


リッドが自分を見つめるのは自分におかしなところがあるからなのだ、とすっかり誤解してしまったメルディがリッドを覗き込むようにして問いただす。
そんな彼女の行動を、キールは何か言いたそうなやや気に入らないという顔をして見つめている。
尤もその機嫌の悪そうな冷ややかな視線の大半はリッドに注がれているのたが。
そしてその横で2人の様子を眺めているファラは、まるで今からウルタスブイに匹敵するくらい面白いものが始まるのだというような表情を浮かべて何かを期待した面持ちでいた。


「メルディから目を離すとなにするか分かんねぇからな」

「バイバ!なにかー。メルディ何もしないよぉ」

「そうかー?キール迎えに大学に行った時、カウンターの上に乗っかって踊り出したのは誰だよ」

「うぅ~…」

「どこでも構わず歌ったり踊り出したり、メルディはそういうのが得意じゃなかったか?」

「それは」


大変仲のよろしい口論である。
聞いているこっちが恥ずかしくなってしまう。


「キール、嫉妬焼いてるでしょ?」


そんな2人を眺めつつ、ファラがどこかからかうような笑みを浮かべてキールの脇腹をつついた。
言われたキールは嫉妬オーラ丸出しで2人を見ていたくせに「そんなことない!」とやや怒気を含んだ声で言うと拗ねたようにどっかりと椅子に腰を降ろした。
そんなに嫉妬してしまうならどこか2人の姿が見えないところに移動すれば良いのだが、全く姿が見えない処に行くのは余計に気に入らないらしい。


「それが嫉妬してるって言うんだけどなぁ」


そんなキールの様子に笑いを堪えてファラが呟いた。


「だーかーら、メルディから目が離せないんだよ。止めてやる奴がいなくちゃ困るだろ」

「でもリッドこの間メルディがおいしそ~言ったクッキー買い占めてファラに怒られたよ」

「食いもんは別」

「なにかソレ~!!」

「何だかんだ言って仲良いんだから。キールも頑張らないとリッドが優勢だよ?」

「うううううるさいっ!!」


言わなければ気付かなかったかもしれない彼の恋心。
自覚してしまった今となっては、それを制御するのも困難だろう。


「俺の傍にいれば何時だってしっかり守ってやるぜ」

「ワイール!リッドたのもしー。メルディとてもいっぱい頼りにしてるよー」


自分の腕に絡み付いてくるメルディの頭を撫でてやり、キラキラという効果音まで聞こえてきそうな彼女の笑顔に少しばかり酔いしれる。
程なくしてパッと離れていってしまった彼女を求めるように、リッドはメルディを視線で追い掛ける。
何時から続いているのかも分からないが、それが今の彼の1番心穏やかな時間らしい。


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