メルディが選んだ道だから。
俺はそれを信じてここで待っている。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「もう1ヶ月か・・・・・・」
師匠であるサグラに言い付けられた仕事をこなしながら、カウンターの上でボンヤリと光を放っているデジタル表示のカレンダーを見詰めて呟いた。
「手、休んでるぞ」
「あ、すみません」
サグラに指摘されて、どうやら完全に止まっていたらしい手を再び動かす。
いけない、どうも自分は彼女の事になると仕事が疎かになるようだ。
「まあな。メルディがインフェリアに行っちまって心配なのはわかるさ」
ブレンダと共に新しい小型銃の設計図を引きながら、サグラは天井を見上げる。
空の上の逆さまの世界。
あの世界に行こうだなんて、そんな途方もない計画を緊張ぎみに話していた彼女は今この世界に居ない。
「一体どんな世界なんだろうね。危険な目にあってないと良いけど」
「言葉は通じるんかねぇ」
メルディを自分の娘のように可愛がっていたブレンダが心配そうに眉を寄せる。
一切の交流がない異世界、空の向こうの世界だなんて自分達には想像もつかない。
「 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 」
「ガレノスが同意したくらいだ。きっと大丈夫だよ」
あの有名な彼が目に入れても痛くないほど可愛がっていた子だ、そんな子を異世界へ送ったのだからきっと大丈夫なのだろう。
そう思わなければやっていられない。
「それにメルディが決意したことだ。きっと何かとても大事な事なんだろうさ」
そうだ。
甘えん坊で寂しがりやで、とっても繊細で弱くて、そのくせ強がりな彼女が譲らなかった事。
それがインフェリアへ行くという決意。
「はい。メルディが決めたことだから・・・・・・」
だから引き止めなかった。
本当は「行くな」とその腕を捕まえておきたかったけれど、それはメルディを困らせるだけなのだと解っていたから。
「帰って来られるか分からない何て言われて、てっきり引き止めるかと思っていたのに」
幼子にするように、ブレンダがハミルトの掌を撫でる。
「ハミルトにメルディは止められねぇさ」
そんな自分の思いを分かっているのかいないのか、サグラはキッパリと言い切って再び図面へと眼を落とした。
「少し、寂しい。けど、待ってるから」
小さな小さな声で、しかし向こう側の世界にいる彼女に届くように、強く願いながら呟いた。
メルディが選んだ道だから。
だから俺は、それを信じてずっとここで待っている。
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